2009年7月~9月
【きょうのクロスステッチ Vol.15】 by 岡村恭子
VOL.15 “煙突掃除”は秋の季語
ポストに「〇日、〇曜日、煙突掃除が伺います。」
と書かれたハガキが入っていました。
暖炉用の煙突掃除のお知らせです。
デンマークでは暖炉の有る個人住宅は毎年一回、シーズン前に
煙突掃除が義務付けられていて、住民税の中にしっかりと「煙突清掃代」
が含まれているのです。煙突掃除のオジサンは大きく括れば市の職員と
いうことになります。そして“衣替え”が夏の季語のように 私の中で
“煙突掃除”は秋の季語となりました。少しずつ冬ごもりの準備が
始まろうとしていると思うと、晩夏の明るい陽射しが更に愛おしく
感じられます。
建築家アルネ ヤコブセンはこの家に大きなオープン暖炉を設えました。
デンマークの多くの個人住宅には今でも暖炉がありますが、
大抵はきちんと扉がついたストーブ型です。この方が安全だし、
熱効率も良く、煤が室内に充満する心配も無く、燃やしたまま安心して
眠れる…と、良い事ずくめです。一方、我が家の暖炉は大きな口を
開けたままですから、面白いくらい良く燃える、燃え過ぎてどんどん
薪をくべなければならない。一度焚いたら最後、とても忙しい。
火付け時に失敗して、部屋中に煙が逆流、充満した煙を追い出すために、
窓を大きく開け放ち、寒さに震え上がった事だって一度ではありません。
扉が無いので火種が残っていると心配で、徹夜で火の用心、と
いう風に笑い話にもならないようなエピソードが沢山有ります。
果たして建築家ヤコブセンは暖炉設計に際して使用時を考慮したか?
それともデザイン優先にしたか?という質問が有れば、住民の私が
即答出来ます。とにかく、そんな風ですから実に世話の焼ける暖炉なの
ですが、それでも、やっぱり暗く寒い季節になると暖炉を囲むひとときは
大きな楽しみのひとつです。
一年ぶりにやって来た煙突掃除屋さんと挨拶を交わしながら、
今年も、もうそんな季節になったのか、と庭をあらためて眺めれば、
桜の葉がわずかに黄色味を帯び、知らぬ間に紫陽花も色褪せてきました。
代わりにシュウメイ菊が今を盛りに咲き乱れ、微風に花頭を揺らしています。
リンゴも大きくなって来ました。
植物は敏感に季節の変化を感じ取り、まだまだ夏だ…と思っている人間たちに
シグナルを送り始めます。
でも、暖炉が恋しくなるまでには、もう少し時間的猶予がありそうです。
今しばらくは夏の名残りの日溜まりで、ゆっくり本など広げて過ごしたい…。
そう思っていたのに。
嗚呼、なぜかノコギリを持ち出して薪作りが始まってしまったのでした。
岡村 恭子
http://www.copenhagensmile.com
シュウメイ菊。
一つの花びらに何匹ものハチが沢山飛び交っています。
赤く色付いたら、ケーキを焼きます。ジャムを作ります。
松ぼっくりを暖炉に放り込むと爆ぜて良く燃えます。