2017年10月~12月
【きょうのクロスステッチ Vol. 411】 by 岡村恭子
VOL.411 秋の東京 地域密着型滞在記
torsdag den. 26 november 2017
秋の東京から戻りました。ひと月ぶりの更新です。
「(彼らの住まいを)自由に使ってください。」という友人のおかげで、
今回は いつもと一味違う地域密着型ともいうべき滞在となり、
夕食の献立を考えながらスーパーで買い物し、お惣菜屋さんの
揚げたてコロッケを買ってぶらぶら帰る…、そんな日常の暮らしを
楽しむことができました。
思えば、家人は20代前半に留学でデンマークに来て以来、
私も結婚を機にコペンハーゲンに暮らし始めてからというもの、
デンマークの家が “ 我が家 “ ですから、日本では実家に身を寄せるか
ホテル逗留です。実家だし遠慮無用というものの長期滞在となると
生活テンポの違いからお互いに細かいところで気疲れする。第一遠い!
その点ホテルは便利で気楽ですが、長期になると自炊料理が恋しくなる。
いずれも違った意味で不便が伴います。 今回はそんな諸問題が
いっぺんに解消されたのですからこんな嬉しいことはない。
早速荷を解き合鍵を受け取って、さあ、にわか東京暮らしのスタートです。
そこは緩やかな坂道の途中に位置していて、南向きのウッドデッキから、
ちょこんととんがりコーンみたいなのが見える、と思ったら東京タワーだった、
というような場所で、木立に囲まれていて毎朝小鳥達がやって来ます。
坂の下に学校があって、校庭で遊ぶ子供たちの声が聞こえて来るのもなんだか嬉しい。
坂道をタラタラと下りてゆくと駅まで商店街が続き、TVの散歩番組で
見たことのあるような風景が広がります。
おせんべい屋さんをのぞいたり、畳屋さんが畳を打っているのを拝見したり、
民家の軒先に所狭しと並べられた鉢植えにも、明かりの灯った夕暮れの商店街にも
何やら懐かしく甘酸っぱい郷愁を誘う時間と空間に満ちているのでした。
おきまりの銀座に始まり、御茶ノ水から神田古本市へ、根津から谷中を抜けて
日暮里へ、はたまた、古河庭園から六義園、神楽坂から早稲田通りへと、
とにかく良く歩きました。いつもの何十倍も歩いたような気がします。
そして、今更のように気がついたのは東京は坂道の町だということでした。
団子坂に柘榴坂、三宅坂に弥生坂、暗闇坂などという怖い坂道もありました。
コペンハーゲンに戻り、どこも真っ平らなのに呆れかえってしまった。
そんな楽しい思い出と一緒にトランクの中から出て来たのは、
散歩の途中で見つけたあれこれです。
日差しが眩しい午後、ふと通りかかった小さなお店で手にした帽子、
神田古本市で掘り当てた “ 永井荷風随筆集上下巻 “ 、神楽坂で買った塗り箸と
谷中の竹細工屋さんで見つけた料理用ヘラはキッチンの所定の場所に
しまいました。目黒のマルシェではデンマーク語で “ Hjem=お家 “ という
文字が縫い付けてある小さなポシェットを購入しました。他にも細々と、
どれもこれも見る度、使う度に “ あの時 “ を思い出すことでしょう。
深い闇にすっぽり包まれてしまう北欧の夜長、 時差ボケの取れないまま、
本棚から取り出した一冊は『日和下駄とスニーカー』(大竹昭子著 洋泉社 刊)
筆者の語る “ 谷道、尾根道、坂道の街=東京 “ を肌で感じた旅を反復しています。
岡村 恭子
http://copenhagensmile.weebly.com/
弥生坂。東大の農学部横を根津までタラタラと坂道が続きます。
旧古河邸の庭園より。すり鉢状の土地を生かし、和洋折衷の変化に富んだ庭園。
秋のバラが見頃でした。バラのシューアイスは180円。
申し込めば茶室でお点前をいただけるそうです。
根津神社と六義園より。
買ったばかりの帽子をかぶって六義園の笹の道を歩く筆者。