2010年1月~3月
【きょうのクロスステッチ Vol. 38】 by 岡村恭子
VOL.38 インドア ボタニク
torsdag den 11. februar 2010
前回のクロスステッチでは蕾だったヒヤシンスの花が咲いて、
只今部屋中むせ返るような香りを放っています。春一番の花の香りです。
我が家を設計したアルネ ヤコブセンは植物が大好きでした。
身近な草花のスケッチを沢山残していますが、その中にヒヤシンスの絵も
有ります。お行儀良く並んだヒヤシンスは、淡いパステルの色合いも
優し気で、凄腕建築家という普段のイメージとは異なります。
そんな植物好きのヤコブセン自邸には、オリジナルの観葉植物ケースが
有りました。ケースの下部に暖房を配管し、ちょっとした簡易温室です。
トロピカルな植物が、窓辺を被いつくす写真を雑誌で見た時は、
機能主義をモットーにしている建築家の、自然主義的な日常を垣間見るようで、
微笑ましく感じたものです。それから月日が流れ、縁有って私達が
彼の設計した家に住む事になった時、いつか写真で見た観葉植物ケースと
同じものが、ダイニングルームの窓辺に有るのを見つけて、
嬉しいような可笑しいような気分になったものです。
60cm×140cmの白い囲いの中は土で埋まり、上部は砂利が敷き詰めて
あります。ケースの下を覗くと暖房が配管されていて、何だか
“人間様よりも葉っぱ様”という感じです。
初代オーナー夫人はそこでカトレアをお育てになったとか…。
3代目オーナー夫人(=私)は、雑多な葉っぱ達と一緒に庭道具や植木鉢、
時にはキャットフードまで、便利な物置きとして活用しています。
それでも、毎年この窓辺でゼラニウムが越冬し、庭に出してもらえる日を
待っています。だから、もしもヤコブセンに聞かれたら、物置きのこと
は内緒にして、「ありがとう!お陰で葉っぱも元気に育っています。」と
言ってしまおう…と思っています。
先日、用事を済ませての帰り、植物園を抜け道してみました。
明るい季節は散歩の人達で賑わいますが、今は氷と雪に閉ざされて、
しんと静まり返った森の中のようです。
白い雪の中で、ガラス張りの温室ドームが、そこだけ遠赤外線でポッと
オレンジ色に浮かんでいます。室内は常夏の28℃、水の中に魚が泳ぎ、
梢で小鳥がさえずっています。
誰も居ない。静かなインドア ボタニク。
同じインドアでも我が家の葉っぱ達より上等の住まいのようでした。
岡村 恭子
http://www.copenhagensmile.com/
植物園。散歩道も一面の雪化粧。ガラスのドーム温室を望む。
常夏の温室内部。小鳥がさえずる和みの空間です。
我が家のプランターケース。只今葉っぱ達が越冬中です。
アルネ ヤコブセンが描いたヒヤシンス(1948年)