2010年4月~6月
【きょうのクロスステッチ Vol. 52】 by 岡村恭子
VOL.52 好きなもの
torsdag den. 27 maj 2010
真っ青な空に雲が広がったと思う間もなく雨降りに、暑いと喜んだ翌日には
仕舞いかけたセーターを引っぱり出すような按配で、このところ北欧の
気紛れお天気に振り回されっぱなしですが、でも、確実に日照時間は延びて
来てとても明るくなりました。PM9:00を過ぎても遅い午後のようです。
それだけでもとても嬉しい!
北欧暮らしはそんなこんなの悲喜こもごも。
人々の気持もお天気次第でご機嫌、不機嫌、単純で分かりやすいのです。
庭も日ごとに緑が濃くなってきました。ライラックが甘い香りを放っています。
鉢植えにした苺も白い花を付けました。
好きなもの イチゴ、珈琲、花、美人
懐ろ手して宇宙見物
(寺田 寅彦)
今頃の気分にピッタリ来る私の大好きな言葉です。
ひと粒のイチゴから壮大な宇宙まで自由に心を遊ばせてみる。
そうすると、ほら、ねっ?!何だか広々とした気持になりませんか?
こんなことをサラリと言える男性はそうそう簡単には見当たらない。
第一、苺ではなくてイチゴ、コーヒーではなくて珈琲なのです。
明治の物理学者寺田寅彦さん(何故か呼び捨てられません)は実に
お洒落な人だったに違い有りません。
ご存知の方も多いとは思いますが、彼は夏目漱石の門下生で
「我が輩は猫である」のユニーク学者の水島寒月君も「三四郎」の
インテリ野々宮さんも彼がモデル。作中でも博識でお洒落なユーモリスト
として登場しているところをみると、大勢の門下生の中でも漱石が思わず
キャラクターにしたくなるような雰囲気の持ち主だったのでしょう。
物理学者でありながら優れた文章家。絵心も有って音楽にも詳しい。
自然を愛し、女性を愛し、子供を愛し、日常の中の“不思議”を
研究する人、そんなロマンティストを生み出した明治という時代に
憧れさえ抱いてしまいます。
自分の好きなものをたった5つ並べただけなのに、まるで広い野原で
深呼吸したような新鮮な気持にしてくれる…。言葉には時としてこんな
素敵な影響力があるのだと感動的です。
私も5つ並べてみました。えーっと…
好きなもの さくらんぼ、庭を渡るそよ風、のら猫カナちゃん、
マシュマロみたいな赤ちゃんのホッペ、テーブル囲んだ皆の笑顔
…かな?う~ん、もっと他に有るような気もしてセレクトするのは案外
難しいようです。みなさまも初夏のひととき、ご自分の好きなもの5つ
思い描いてみてはいかがでしょうか?
岡村 恭子
http://www.copenhagensmile.com/
只今リンゴの花盛りです。
サクランボの赤ちゃん。元気に育ってくれますように。
日陰に咲いた遅咲きのチューリップ。
バラの花壇越しに通り向こうに咲くライラックの借景。