2011年1月~3月
【きょうのクロスステッチ Vol. 83】 by 岡村恭子
VOL.83 紙の世界の陰影礼賛
torsdag den. 24 februar 2011
夕食の支度をしていて、ふと時計を見るともうすぐ5時。
つい先日まではとっくに室内の照明を点けていたのに、
今日はそんな事など忘れて野菜を刻んでいました。
それだけ日照時間が長くなったという証拠です。嬉しいです。
氷点下だけれどカラリと晴れた午後、あまりにも気持ち良さそうなので、
両手をポケットに突っ込んで庭に出てみました。裸ん坊の桜の幹越しに
早春の太陽が微笑んでいるものの、おお、寒い!たちまちフローズンです。
慌てて室内に駆け込むと、お日様がリビングの白い壁に庭木の
シルエットを映し出しています。なぜだかホッとして、
そういえば幼い頃、障子越しに両手を使ってキツネや鷲の影絵を
作って遊んだことを思い出しました。
どんなにライフスタイルがモダンに変化しても私達の精神性には、
昔から木と紙で出来た住宅に親しんできた民族のDNAが今も受け継がれて
いるようです。前述の影絵遊びでなないけれど、障子越しの柔らかな
採光は、室内に自然を上手く取り入れた好例だし、イサムノグチに代表
される和紙を利用した照明などは、日本の伝統から生まれたインテリアの
妙だと私は自信満々です。
また身近な所では、折り紙なども素晴らしい伝統文化で、未だに
デンマーク人の友達に鶴を折っただけで「 ワォ!」と感心されてしまいます。
彼らが不器用という以前に、我々日本人がそれだけ“紙文化”に
親しんで来たという事が言えそうです。
そんな中で最近、様々なモチーフを切り込み、浮かし、透かし、重ねた
ペーパークラフトが人気のようです。カードだったり、立体的な装飾品だったり、
中には建築家が模型制作時に使うジオラマ的なモノもあります。
いずれも レースのように繊細なテクニックを生かしている所が特徴のようです。
去年の私の誕生日には、開いた途端に真っ赤なツリーがピョコン!と
立ち上がるという凝ったカードが届きました。良くよく見ると、
花や葉のモチーフが重なり合って、丸い木の立体になっているのです。
きれいなだけでなく、とても良く考えられていると感心しました。
今年の年賀状にもウサギや梅の木がレースのように重なり合い、
その向こうに富士山、という、実に凝った趣向のカードが届きましたが、
こんな所にも手先の器用な民族性が発揮されている!とあらためて思いました。
それにしても図案考案からカットまで、一体どのように作るのでしょうか?
多分コンピューターのなせる技なのでしょうが、
何事も不器用な私は、針の先で突いたような細かいモチーフに
首を傾げて感じ入るばかりです。
岡村 恭子
http://www.copenhagensmile.com/
レースのように繊細ペーパークラフト。明かりにかざして陰影礼賛です。
窓辺で揺れるペーパーリース